IMG_5214

1: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:14:03 ID:x9h
 続けるつもりはなかった。ただその時友人と旅行に行く計画を立てていた為、一か月だけ働いてみるか、とそういう安直な気持ちで始めただけのアルバイトだった。

 労働というものは中々どうして難しく、元より人と接することが苦手な俺にとって、その接客業はやはりというかなんというか、向いてはいなかった。

 なのにどうしてか、俺はそれをやめることなく、ずっと続けていた。惰性だろうか、それともこの空間に存在することが心地よかったからだろうか。さほど感慨深くもないが、かといって唾棄すべき思い出とも言い難い。

 今になって思うが、本好きの俺にとってやはりその空間は、捨てがたいそれだったのだろうと今ならば思う。

引用元: 寺田心(18)「ブックオフなのに本ねえじゃん」

2: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:14:28 ID:x9h
中学校を卒業し、高校に上がったタイミングで、俺はブックオフでアルバイトを始めたのだ。一か月だけ、と密かな企みを添えて始めた筈のそれは、いつしか俺の生活基盤となって、人生という物に食い込み、立派な一つの歯車となっていた。

 気づけば三年が経とうとしていた。

 不器用で失敗する性格は治らなかったし、とくにそこで何かを学び成長したわけでもないのだが、それでもやはり、店長の言葉はずしりと俺の懐に潜り込み、その場で圧倒的な存在感を放ちながら居座っている。



「閉店するんだよね」



 そうですか。とだけ返して、俺はいつものようにタイムカードを切り、帰路についた。

3: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:15:52 ID:x9h
家までの道中、その言葉が脳内を反芻していたが、しかし俺がどうこうできるような話でもない為、何もなかったかのように街灯の下で白い息を吐いた。いつもよりも冷たかったような気がして、名状しがたい寂寥感が身体を覆ったのを覚えている。

 次の日の朝、やっぱりいつものように学校へと赴いた。

 人と関わるのが苦手で、そして意識してそれを避けてきた為、俺の学校生活は灰色に包まれている。偶像に縋りつくこともせず、淡々と日々をこなす毎日だけが続いた。
一緒に旅行に行こうと言っていた友人も、卒業式が終わった後の異様な興奮から出てきた虚だった為、結局俺は一月のバイト代を使うことはなかった。
口座に無機質な文字で、高校生が持つには少し多い金額だけが映し出され、笑った。

4: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:16:23 ID:x9h
 学校では口を使用することがない俺も、バイト先では違った。

 田舎だとはいえ本好きがいないわけではなく、というよりも田舎だからこそ皆、娯楽を読書に求めていた。その為盛況まではいかないまでも、経営難に陥ることはなかった。とこの時の俺は信じていた。それが脆く崩れ去るとは、この時はまだ思ってもいなかったのである。とんだ笑い話だ。

 いつのまにか、アルバイトが人生に彩りを添えてくれるようになっていた。

 接客は事務的な会話の応酬の為、マニュアルさえ覚えれば誰にでもできる。だから人と関わることが苦手な俺でも、三年間ずっと続けてこれた。

 バイト仲間とはプライベートで遊ぶことこそなかったが、それなりにいい関係を築けていたように思う。年齢、性別、立場などが様々な為、妙に気を遣わずに話せるということが俺に幸をもたらしたのだ。これが同年代だけだったと思うとぞっとしない。

 だからこそ、店長の言葉が重いナイフとなって俺を突き刺していた。

5: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:17:01 ID:x9h
閉店するとは言っても、なにもいきなり店がなくなるわけではない。
順を追って、それは泡沫となっていく。最後にはその残滓でさえ残らないだろう。しかし、今はまだその残滓で遊べる程度には形を成していた。

 在庫処分セール。

 生きてきて幾度となく見たこの文字列に、寂しいという念を抱いたのは初めての経験だった。思えば俺はこの場所で、様々な初体験をしている。

 百円で売られている本を手に取り、十円という投げ売りも甚だしい値札を優しく張り付けていく。自らの価値を自らで決められない本を見て可哀想になった。

 段々と、店内から本が消えていった。

 まずは人気の本から。次は百円では買わないけど十円なら……という本、転売ヤーのような人間も訪れていたような気がする。
そして俺はそれらすべてのバーコードを読み取り、何度となく金銭のやり取りをした。普段なら無感情でするようなそんな行為も、閉店が控えているとなると、一抹の寂しさがあった。

6: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:17:33 ID:x9h
ここでやっと気が付いた。

 俺は、この場所が好きだったのだ、と。

 学校でも家でも友人でも趣味でもない、この場所が俺の三年を支えてくれていたのだと、皮肉にもなくなることが確定してから気が付いた。

 そんな俺の気持ちを無視して、当たり前のように本は減り続けた。

 在庫処分をしている店だというのに、本を売却しに来るような人も存在した。ついいつもの癖で査定しようとしてしまい、店長に笑いながら怒られたのは記憶に新しい。

 あの時、店長はどう思っていたのだろうか。新しい本を入荷出来ず、ただ器からそれらが抜き取られていくのを傍観するだけ。今この場において、俺達はあまりにも無力だった。

7: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:17:55 ID:x9h
どうしても売れない本も当然あった。だから、それらは俺の手を付けていない旅行資金ですべて購入した。店長に止められたが、好きでやっていると告げると、彼は嬉しそうに笑っていた。その柔和な笑みを、俺は忘れないと思う。

 そして、ついにその時が来た。

 来るとは頭で理解しつつも、しかしどこか朧げだった閉店の二文字が、俺の感情を攫った。

 棚だけになった空虚な店内を、どこか俯瞰的に見つめて、俺は自分でも気づかないうちに呟いていた。

8: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:18:09 ID:x9h
「ブックオフなのに、本ねぇじゃん」

9: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:18:23 ID:x9h
空虚な店内は、しかしそれでいて幸せに包まれていた。

10: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:22:07 ID:Y8H
長文嫌いやけど読んでもうたわ

11: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)13:22:43 ID:x9h
>>10
ありがとう

12: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)16:36:13 ID:WDJ
ワイ素人やけど、読みやすかった

13: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)16:39:48 ID:LVb
no title

まぁまぁのSSでしゅねw

14: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)16:42:58 ID:hWw
バカか

15: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)16:43:18 ID:yWU
no title

キモいインキャが書いたんでしゅかw

16: 名無しさん@おーぷん 19/05/15(水)16:44:34 ID:LVb
このSSで寺田心くんのファンになりました

5×20 All the BEST!! 1999-2019 (通常盤) (4CD)

新品価格
¥4,255から
(2019/5/15 21:20時点)